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新年号特別企画

第41号

(平成12年1月)

清水管長 インタビュー

(21世紀へ、世界へ、天道流合気道の展望を聞く)

『天道・かわら版』1月新年号の特別企画として、清水健二管長に天道流合気道の展望などを伺いました。2000年・「辰」の年男、両膝手術の完治を受けての“飛躍の年”に、率直な思いを語っていただきました。(編集部)

懸案だった二年がかりの両膝の手術(学生柔道時代の後遺症による)が成功し、昨年12月には稽古を再開されましたね。

清水先生 右膝を一昨年に、そして左膝を昨年に手術したわけですが、もう一方の膝を手術する際には、最低でも2年間あけるのが普通だそうです。しかし私の場合はちょうど1年で受けました。そのとき担当医からは「本当に大丈夫ですか」と逆に聞かれましたが、今はとても順調で十字靭帯も思ったほど傷んではいませんでした。ただ筋肉が張ることはありますが、休めばもとに戻りますから、時間の問題で心配はいらないと思います。ですから手術に踏み切った決断は正解だったと考えています。

両膝完治の年でもある今年は大きな節目の一年にもなりそうですが、天道流合気道の内外での動向についてはいかがですか。

清水まず国内では、私のもとで二十有余年に渡って稽古を重ねてきた指導部の冨田(博文=41歳・五段)君が私の合気道を本気で役立てたいとの希望から、4月から独立して故郷の和歌山、…大先生(合気道開祖・植芝盛平翁)の生誕地でもあるわけですが…、指導を開始します。彼のやる気が旺盛ですから応援できることは何でもしていきたいと思っています。天道流合気道を広めるというよりは正確な合気道を残していきたいという気持ちです。

また海外では、オランダのアムステルダムから「天道流合気道スクール」(仮称)開設の打診が来ています。これは、故・司馬遼太郎さんの『街道をゆく・ヨーロッバ編』で全通訳を担当したティレ・M.A.C・パーナッカーさんという方からのお話です。どのようなことかといいますと、ビジネス・スクールのような形で天道流合気道をヨーロッパの人たちにアピールしたい意向なんです。仕事の上でも、生きていく上でも合気道はとても有意義だということをおっしゃってくれています。具体的なことは今後ですが、今年は日蘭修好400年記念の年とも聞いていますので、タイミングがいいと思っています。

いずれにしましても、私自身も人生の後半にさしかかっていますので、そろそろ本気になってやる気を出していこうという気持ちです。本部道場のみなさんには日本を空けることでご迷惑をお掛けすることになるかもしれませんが、私の合気道がお役に立つならば海外での普及にもっと力を入れていきたいと考えています。膝の手術のため3年間は成りを潜めていましたが、今度はそれをバネにしようと思っています。

先生のドイツ・セミナーにはドイツはもとより、フランス、ベルギー、オランダ、スロベニア、アメリカ、メキシコなどから参加者が集まってきますが、彼らが合気道に求めているのはどのようなものとお考えですか。

清水それは現代の日本人の心ではなく古い日本人の精神ですね。昔の日本人は、身体は小さくても堂々とした態度で欧米人に接して負けていなかったといわれます。自分を捨てて公を先にするといいますか、吉田松陰などはまったくその通りで、その上に理想と勇気を持ち合わせていたそうです。もともと日本人には、そのような勇気と覚悟があり、理想を掲げて堂々としていたんですね。そのようなものを本などで読んだ外国人がその精神にふれたいという気持ちから、日本の伝統武道の一つである合気道に興味を持つようです。今夏もセミナーが開催されますが、このほか秋のセミナーとしてドイツ6地方からの招聘がすでに来ています。ここ3年ほどは年1回の渡欧指導に抑えていましたので、今年からは少し頑張りたいと思っています。

今の日本はまだまだ経済優先の感が強くありますが、すでにヨーロッパでは精神時代といいますか、心の時代に入っています。日本も本当の先進国の仲間入りを願うなら、心の時代に目覚めなければ遅れてしまいますね。先日、鎌田先生(茂雄=東大名誉教授・仏教学者)とお話をしました際、「これからは清水先生のようなお仕事が本筋になってきますよ」と、ありがたいお言葉をいただきました。私にはそれほど力はありませんけど、合気道に関してはできるだけのことはやっていきたいと思っています。

術後らしからず気力充実といった感じを受けますが、いかがですか。

清水植芝盛平翁は「人間は60歳にならなければ本物の気力が出てこない」とよくいわれていました。ご自分にいい聞かせていたこともあるのでしようが、私自身もこの歳になって、今までの人生が根っこであり、これからが本当に充実させなければならないという気持ちが強いですね。今までの色々な体験をようやく活かせる時期、つまり肉体・精神・頭脳が一つになって気力が充実できることを実感しています。やはり「体験は学問に勝る」ということでしようか。長年にわたるヨーロッパでの指導の体験等がいま本当に活かせることを痛感しています。ある人がどんなに知識武装しても、それだけでは本当の自信は湧いてこないといっていましたが、その通りだと思います。

稽古に励む門人にも大変参考になるお話だと思われますが…。

清水稽古事は決して焦ってはいけません。天道館の道場訓に「焦らず 飽きず 先ず一歩 そしてまた一歩継続は力なり」を頭の中では分かっていても、「合気道は好き、稽古は嫌い」という人がいますね。辛いことはだれでも好きではありませんが、辛いことを耐えて継続することが強さになります。自分で月謝を払い、自分の意志で稽古に来ている人たちでさえ、ややもするとマンネリに陥って惰性になってしまうものです。

ですから「初心忘るべからず初心恐るべし」というように、自分に何度も何度も挑戦して自分に克つことが先決です。「なんでこんなに欲張りなんだ、力むんだ。もっと肩の力を落として手首を楽に手を開けば、自然な行動が出来るではないか」ということに気付けば進歩です。ですから自分に負けない気持ちで常に稽古して欲しいですね。ガンジーもいっています「力は肉体的な能力から出てくるものではない。不屈の意志から出てくるものである」と。

最後に現在の先生の心境を一言で表すとしましたら?

清水いま直感的に浮かんだのが「素直」の「直」です。先ほど外国人が日本の心を学びたいというお話をしましたが、それは「素直さ」から出てくるものだと思います。合気道も素直でなければ進歩はしません。素直ということは白紙になれることです。白い紙には何でも書けます。自分の心をいつも白紙にしておけば人も喜びます。自然の強みです。自分の素直さを大切にして進歩することだと思うのです。